webメディア戦国時代と言っても過言ではない昨今。多種多様な媒体が生まれては消え……が繰り返される中、“ファンが濃い”、“モノが動く”と注目を集め続けるのが、講談社のミドルエイジ女性向けwebメディア『mi-mollet(以下ミモレ)』だ。
3周年記念として発売した、書籍と“おしゃれ三種の神器”(ドレスシャツ・ピアス・赤リップ)をセットにした8万円のボックスが即完したニュースは、記憶に新しい。ミモレが辿ったファンとの軌跡、そしてこれからについて、副編集長の川端里恵さんに話を聞いた。
川端里恵さん プロフィール
2002年講談社入社。広告営業に4年間従事した後、『with』、『VOCE』編集部、デジタル部署、新雑誌、『FRaU』編集部を経てミモレ編集部にジョイン。webメディアの担当歴は10年にわたり、ミモレでは編集業務のほかマネタイズ企画、サイトデザインや開発のディレクションなどブランドマネージャーとしても活躍する。
ミモレ編集部が大切にしていること
“リアル“と“チェンジ”をキーワードとするミモレは、“もう一花咲かせよう”と意欲的な女性の背中を支える。
「セカンドステージを迎える年齢やタイミングは“引っ越した”、“子どもの手が離れた”、“昇進した”など人それぞれなので、読者の世代はとくに限定していません。ファッションや季節性、社会的な関心事まで含めた読者のリアルタイムに寄り添っています」と、多様化する女性のライフスタイルを冷静に見つめる。
「チェンジの後押しとは、その人が積み重ねてきたスタイルを肯定しながら、もう一歩前に出るために、さらに自信をつけてもらうこと。なので、危機感を煽って消費を促すことはしません。
“ベストバイ”はあっても、“マストバイ”という表現や、“男の子ママはこれを持っていないと”という訴求はしないようにしています。皆さん忙しかったりしんどかったり、一生懸命生活されている中で、不安を煽られたくないですよね。それよりもホッとしてもらいたい」
編集会議は毎週。全員で数字に向き合う
月間1200万PV/170万UU(2019年8月時点)を誇るミモレの編集会議は、なんと毎週! 前週を振り返り、オウンド内での数字はもちろん、配信先でヒットした記事、そこから流入の多かった関連記事など、細かな情報共有を欠かさない。
「雑誌の編集部では、今ほど数字を体感しながら次に活かすことはなかったように思います。編集部でもこの数年で、マインドセットがありました。自分以外が担当した記事であっても、数字が思うように伸びないときは、“読んでもらえたほうがいいじゃない”とタイトルを変えることも。皆で皆の記事をブラッシュアップし合っています」
もくじ
数字の見方で大切なのは、“ウェット&ドライ”のバランス
メディアの運営上、数字の伸長はもちろん重要な要素だが、ミモレではPVやランキングだけに注視せず、“そのコンテンツが媒体にとってどんな意味があるか”を冷静にジャッジしている。
「新規ユーザーを運んでくれる、リピーターさんに愛されている、じっくり読まれている、決まった曜日にユーザーを連れて来てくれる連載……どんな価値があるか、色々な指標で数字を見ています。PVだけを追いかけると、“この連載やめたほうがいいんじゃない?”という話になりがちですが、実はそれがリピーターの入り口になっていたとしたら、サイトのブランドや世界観に関わること。ウェット(定性的)な部分と、ドライ(定量的)な部分のバランスが大切だと思います」
ファンとのコミュニケーションの軌跡
ミモレが注目を集める最大の理由であり、そして強みでもあるファンの濃さと、エンゲージメントの高さ。“コミュニティ作りに成功しているメディア”との呼び名も高い。運営に関するトピックスにおいて、特にユニークな3点について紹介したい。
1.読者からのコメントでコンテンツが“完成”するという考え方
現在はコンセプトディレクターを務める創刊編集長・大草直子さんの「コメントもコンテンツのひとつである」という考えのもと、運営当初からコメント欄を開設してきたミモレ。「コメントでコンテンツは完成する」とレスポンスも大切にしてきた結果、現在もファッション、美容、社会的トピックスにいたるまで、数多くの記事に読者の声が届く。
2.名前も顔も、オープンな編集部
講談社では珍しく、ミモレでは編集者が名前だけでなく、顔も(そして身長も!)明らかにしている。これも大草さんの「著者だけが顔と名前を出して表に立つのではなく、御簾の向こうにいる編集者も、企画意図や思いを伝えていってはどうか」との考え方に基づく、同社としてはチャレンジングな試みだった。現在では著者・編集者それぞれにファンがつく様子も見られる。
「記事への責任もより感じますし、嘘をついて褒めることはできないなという気持ちに……。結果、読者と近づいて、お互いに本音で話しているように感じてもらえたのかなと。“編集部”ではなく“この人”の褒めているものが知りたいと、SNSのような感覚、また同僚とのお昼休みのような感覚に近いのかなと思っています」
3.イベントはお茶会や読書会、なんと“大学”まで!
各都市で不定期に行われる『ミモレお茶会』、モヤモヤや悩みをシェアする『寄り合い』などのイベントも、読者と密接なミモレらしい取り組みだ。
「歳を重ねると、おしゃれの話をすることって段々と少なくなりますよね。“あれを買いたいと思って迷ってる”、“これを買った”って話だけで、すごく盛り上がるんです! 欲しいものを買うって本来はとってもうれしいことのはずなのに、意外と話す場がないという……」
“また買ったの? と思われたくない”、“ファストファッションはいいけど、ブランド物はバレたくない”など、リアルなコミュニティでは繊細な気遣いが働くが、ファッション好きが集まるお茶会ならば、存分におしゃれトークに花を咲かせられるというわけだ。
お茶会発の“大学生に戻りたい”との声をもとに、東京と京都の2会場で『ミモレ大学』を開講した実績もある。大草さんはじめ、豪華なゲスト陣による全8回のカリキュラムを有料で提供する、一大プロジェクトだ。
「受講した方の満足度は非常に高く、“もう一度やってほしい”というお声もたくさんいただきます。直接のコミュニケーションは、コメントとはまた違ったボリュームで、濃密な情報も得られますね」と川端さん。一方で日々のメディア運営と『ミモレ大学』の両立には多大なパワーを要したといい、「やりがいの反面、ビジネスとしての継続性には課題が残り、まだ答えは出ていない」と語った。
雑誌出身の編集部がチャレンジする、“デジタルならでは”の企画
かつては“雑誌の延長に留まらない、デジタルらしさの活用”が課題だったというミモレだが、現在はシステム担当を兼任する川端さんが先導し、さまざまな試みを続ける。
読者からも好評! スタイル写真を徹底活用したコンテンツ
コンテンツのアーカイブが叶うのも、デジタルならではのメリットのひとつだ。ミモレのスタイル写真のアーカイブは、7000カットを優に越える。そこでAI解析による自動タグ付けツールを導入し、アイテムによって細かくデータベース化。ピンポイントのアイテムやテイスト、身長によってもスタイルを検索できる『なに着る?検索』として活用されている。
「世代的にトレンドが大きく変わるわけではないので1年前のスタイルにも参考になるものがたくさんありますし、お仕事服も古く感じることはない。これを活用しない手はありません」
これらの写真を新たな切り口で再編集したまとめ記事も、月間PVを押し上げるほどの人気コンテンツに成長しているという。
同時視聴数が1000名を越える、インスタライブ読者が家から気軽に参加できるようにと、インスタライブもウィークリーで実施。展示会レポート、メイクのHOW TO、おつまみ作りなど多岐にわたる企画が展開され、コメントも活況だ。
ユーザーインタラクティブな取り組みとなっているだけでなく、協力ブランドからも“ライブ中に問い合わせの電話がある”、“紹介された翌朝、店頭にお客様が並んでいた”とポジティブな声が集まるエピソードからも、ミモレならではの影響力が感じられる。
今後のミモレが目指すもの
2020年1月には、5周年を迎えるミモレ。妻・母・チームリーダーなど様々な肩書の女性が“個人”に戻り、自身のことをゆっくりと考えてほしいという気持ちを込めて、『婦人のひとやすみ』をテーマに準備が進んでいるという。期間限定で情報提供やイベント企画・サポートなどの形で運営に関わる『読者サポーター』も募集予定だ。
「読者のみなさんを心から尊敬しています。家のこと、会社のこと、家族のこと、毎日頑張っていながらおしゃれも楽しみ、知的好奇心も旺盛で、社会性も高くて……本当にすごいことだと思っています。1日のどこか数分でも、ミモレが“自分を認められる楽しい時間”になれたらうれしい」
真摯に読者と寄り添うミモレの姿を象徴する一言ではないだろうか。ファンコミュニティは一朝一夕にして成らず。年明けにミモレはファンをどのように盛り上げるのか、ニュースを楽しみに待ちたい。