こんがらがった“アパレルものづくり”工程を解きほぐし、業界の未来を紡ぐAYATORI

(この記事は#CBK encyclopediaにて、2020年4月11日に公開されたものです。)

「ファッション」には誰もが消費者として関わっているため、実際に起きている分かりやすい問題ばかりがメディアで指摘され、SNSで様々な持論が展開されるという現象が起きています。

問題自体は分かりやすい反面で、その原因は複雑に絡み合っていて、解決に向けた決定打は長らく打たれずにいます。

そんな現状を紐解いて「AYATORIのように再構築するのが我々の使命」と語るDeepValley代表の深谷さんに、製造工程の課題やその解決策についてお話を伺いました。(インタビュアー: ニューロープ酒井)

※ コロナの騒動を受けて、チャットにて取材させていただいています。

DeepValley代表 深谷玲人

「100枚発注のうち30枚だけ色が違う」なんてことが起きているアパレルの製造工程の問題を解決するAYATORI

ー 酒井

DeepValleyさんは「AYATORI」というサービスを展開なさっています。

どういうサービスなのか、ざっくりと説明していただいても良いでしょうか?

ー 深谷

簡単に言うと「AYATORI」はアパレル業界におけるアナログで複雑な製造工程のコミュケーションと情報を効率的に管理することのできる、ものづくり版の「GitHub」のようなサービスです!

ー 酒井

GitHubというと、複雑なソフトウェア開発の現場には欠かせないツールですね。複数のエンジニアが様々な機能を同時に開発していくに当たって、今や「ないと話にならない」くらいのサービスになっています。

ソフトウェア開発同様、製造工程ではコミュニケーションの問題が色々と起きているということでしょうか?

ー 深谷

例えばひとつの商品を作成する際、

ブランド → OEM商社 → 生地屋 → 資材屋(ボタンやホック) → ファスナー屋 → 縫製工場 → 加工屋

といった具合に複数の会社をまたいで生産することになります。

ー 酒井

工程や関係者がめちゃくちゃ多いわけですね。

ー 深谷

そうなんです。まるで伝言ゲームのようになっていることが原因で、コミュニケーションロスが発生してしまっています。

ー 酒井

具体的には、現場ではどういういざこざが起きているんですか?

ー 深谷

良くあるのが、

  • 履歴の残らないやりとりによる「言った言わない」のトラブル
  • 関係者への最新/正確な情報の共有漏れ
  • メールや紙、FAX、チャットなど、情報がバラバラになってしまい探すのが大変

といったトラブルです。

さらにはますます進む製造の少量多品種化が加わって、製造現場は疲弊しています。

ー 酒井

「発注したサンプルが上がってきたら生地が全然違っていた」というような話を聞くのですが、そういうことが実際に結構起きているんですか?

ー 深谷

はい、良くある話しですよ。(笑)

サンプルならまだしも、「100枚発注したうち30枚だけ色が違う」なんてこともあります。

例を挙げたらキリがないくらいアパレル製造の問題は闇が深いんです。

ー 酒井

うわ、そんなこともあるんですね。納品する側も「やっちまったけど納期だからとりあえず納めておくか…」みたいな心境なんですかね。

「サプライチェーンが長い中で、いつ自分の工場にボールが回ってくるかも正確に読めないから生産ラインの稼働スケジュールをはめるのが大変で、バッファを見て、結局リードタイムが超長くなる」みたいな話も聞いたことがあります。

ー 深谷

アパレル生産って大変なんですよね。(笑)

もちろんそういうトラブルにも「原因」はあって、製造の問題であったり、ヒューマンエラーであったり。

このうち業務過多が原因で起こることについては、「AYATORI」を使ってもらうことで解決できるようにしています。

アパレル業界で11年活躍したエースが、業界の問題に切り込むためにスタートアップ

ー 酒井

深谷さんはファッションテックベンチャーには珍しく、もともとアパレル業界の出身なんですよね。

簡単な経歴と、どういったことを担当していたのか教えてください。

ー 深谷

そうなんです!

アパレル業界には11年で6社転職して、販売から営業、MD、ブランド責任者と経験してきました。

ー 酒井

11年間どっぷりアパレル業界につかって、色々と闇が見えてきたわけですね。

ー 深谷

インフルエンサーをディレクターに迎えてオンラインのみで販売するブランドを複数見ていたときに、マネジメントの限界を感じましたね。

その当時同じ新規ブランド開発部にいたメンバーとDeepValleyを共同創業しました。

ちょうど同じ「製造問題」や「非効率」に対する問題意識を持っていて、これらを解決しようとしています。

ー 酒井

インフルエンサーさんはセンスはあっても業務知識があるわけではないので仕様変更も多そうだし、深谷さんが生産チームとの板挟みに合う様子が目に浮かびます。(笑)

ー 深谷

その板挟みをうまく取り持つのは得意でした。(笑)

数字とロジックの理詰めが一番効きました。ディレクターよりも売上を作る自信はあったので。

ー 酒井

そうやってプロとしてしっかりコラボするのが一番良いあり方ですね。

仕事できる深谷さんがファッションテックを始めたと。(笑)

そうやって生まれた「AYATORI」、どういうお客さんに、どんな感じで使われているのでしょうか?

ー 深谷

いまだに「ブランドディレクターやMDやらないか?」と引き抜きに合うこともあるので、なかなか自信はありますよ。(笑)

「AYATORI」はまさに、そんな製造の問題を抱える企業さんに採用いただいてます。

型数が多くて1つ1つの状況が追えないブランドさんを中心に、「工場やOEMと細かなやりとりのログを残す」など、今の生産スタイルを大きく変えずに使っていただけています。

各社各部署が作成してるエクセルを「AYATORI」が中央集権型にして、アクセス権限を管理してるイメージです。

ー 酒井

前提の話になるのですが、仕様書みたいなドキュメントが、担当者がそれぞれ作ったエクセルのフォーマットにまとめられていたり、それを色んな人があちこちで更新したり、しまいには手書きで書き足してFAXで飛び交ってたりして、どれが最新かも分からないような状況が起きてるわけですよね。
分岐していった「最新版のファイル」が3つあったりする。

ー 深谷

おっしゃる通りです。

共有されてるならまだしも、許容範囲のコンテクストの違いから、ズレが発生します。

エンジニアリングでいえば、コンフリクトを許しているようなものです。(笑)

ー 酒井

おそろしい。(笑)

それでもう出来上がったものが発注側の意図したものと違っていても、誰がどう悪いのかもよく分からないと…。

ー 深谷

結局製造工程で問題が起きたとき「犯人探し」になってしまって、不毛なんですよね。

立場の強いブランド側が押し切ったりしてしまうような問題も招きます。

サービスをリリースして見えてきた“深い谷”とその向こう

ー 酒井

実際にAYATORIをリリースしてみて新しく見えてきたことってありますか?

深谷さんの関わってきたブランドとは全然違うやり方をしていたり、違う問題を抱えていたりするお客さんもいたりするんじゃないかなと思うのですが…。

ー 深谷

リリースしてみて新しく見えたことは2つあります。

1つ目は「デジタル化への拒否反応が想像より大きかったこと」です。「可視化」されると困る人が多かったという問題。

2つ目は「効率化に魅力を感じる会社が少ないということ」です。

まず属人的とは言え、可視化を行わなくても少数精鋭の体制で「現状回ってる」認識があります。

加えてアパレル業界の多くが36協定を結んで「見込み残業40時間」のような条件で働いています。残業時間が削減されることに、経済的な魅力を感じてもらいにくいんです。

ー 酒井

「可視化されると困る」というのはどういうことでしょう。

何かトラブルがあったときに原因が特定されると都合が悪い人、自覚のある人が割といるということでしょうか?

ー 深谷

おっしゃる通りです。

創業前にヒアリングして回ったときには、AYATORIの構想にご立腹の企業さんもいらっしゃいました。

「刺されるよ?」なんて言われたこともあります。(笑)

ー 酒井

それってブランド側も生産側もですか?

ー 深谷

「刺されるよ?」の企業さんは生産側でしたが、ブランド側もパワーバランスが強いのを良いことに無茶させてる場合もありますからね。

口頭発注の「言った言わない」で結果下請法に抵触しているようなケースは珍しくありません。

ー 酒井

じゃあもう深谷さんは都心でも地方でも刺されても良いように鎖かたびら着ておくしかないですね。

ー 深谷

うちの現役アスリートの投資家には「走って逃げなさい」って言われました。(笑)

ー 酒井

それは恥だが役に立つアドバイスですね。

もう1つの「効率化が必要とされていない」みたいな問題は結構ややこしいなと思います。

長期的に見たら快適な労働環境が魅力的な人材を惹きつけて、結果良いことしかないはずだけど、そういう長期的な意思決定をできるのって結局部長とか経営陣クラスになってきそうです。

ー 深谷

そうなんですよね。

加えて業界自体が斜陽なのもあって普及が難航してるのが現状です。

ー 酒井

斜陽であることって何か関係あるんですか?

投資できないみたいな話…?

ー 深谷

そうです。「効率」だと数字にならないんですよね。見込み残業が減るだけだと、経営的なインパクトがないんです。

投資するなら「売上上げる」か「原価下がる」が求められています。「導入した方が良いけど、導入しなくても良い」だと話がなかなか進まない。

ー 酒井

なるほど。とにかく視点が「単年度計画より先」に向かないっていう話ですね…。

ー 深谷

そうですね。

まさに「中期経営計画」に我が社のロゴを使っていただいてる企業さんが、把握している限りでも3社いらっしゃいます。(笑)

ー 酒井

それは嬉しいですね!

一方で導入が進まないパターンも見えてきた中、これからどういうアクションを取っていこうとしているのでしょうか?

ー 深谷

これはまだ、どこにもちゃんと話してないんですが。(笑)

すぐにはできないかもしれませんが、今後時間をかけて「通信費」ではなく「原価」の予算に入り込もうとしています。

複雑な工程の製造サポートや請求業務など、「生産管理業務」を我々が受託していくというものです。

OEM業務や振り屋と言われるような製造プランニング事業をやってる方々とタッグを組んだり、我々もフレキシブルにサポートしたりできるようにすることで、「原価」の予算からシェアを奪う戦略です。

ー 酒井

なるほど。「製造工程のディレクションを安価にやりますよ!」と。

結果として工場の稼働率を上げて売上にも貢献することにもなるのでしょうか?

ー 深谷

その通りです! もちろん工場だけでなく、長い目で見ればサプライチェーン全体が効率化、デジタル化することで、業界全体にも寄与できるのではと思っています。

ー 酒井

実際「生産工程の効率化は必要だ」ってみんな言ってるのにそれを解決するサービスがなかなか浸透しない現状に対して、アプローチを変えてデファクトスタンダードを目指していくということですね。

問題があまりにも明確なので、あとはやり方とタイミングだけの問題なんだろうなぁとは僕も個人的に思ってます。

最後に何か一言あればぜひ!

ー 深谷

消費者は「マス性 / フォロワー性」から「多様性」に変わり、ブランドも出店メインの規模の戦略から専門性のあるニッチブランドにシフトしたことで、販路としてECが台頭してきました。

一方で製造工程は複雑でアナログなまま、状況が変わっていません。このままでは業界全体が破綻するのが目に見えています。

この複雑に絡みあったサプライチェーンを可視化し、子供遊びの「AYATORI」のように再構築するのが我々の使命です。

新しい消費者に、新しいブランドに、我々が新しい製造を届けることで、本当に良いもの作りをするための土壌を創造できるものと確信しています!

ー 酒井

なかなか表に出ないアパレル業界の裏側を垣間見ることができました。

今日はお忙しいところありがとうございました!

関連リンクAYATORIDeepValley深谷さんの熱いつぶやきをウォッチできるTwitter

出典元:#CBK encyclopedia(2020.4.11.)

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