若者ファッション・カルチャーの発信地として圧倒的な存在感を放ち続ける『SHIBUYA109』。時代時代の若者に親しまれながら、今年4月に開業40周年を迎えた。
全盛期の2009年を超える勢いで来館者数も好調の同施設は、Z世代やミレニアル世代をターゲットのど真ん中に据え、どんなコミュニケーションに取り組むのか。
EC運営やマーケティングを担う、株式会社 SHIBUYA109エンタテイメントの内藤文貴さんに“SHIBUYA109の今”を聞いた。
若者と向き合い続ける『SHIBUYA109』の理念
SHIBUYA109事業に特化した専業会社として2017年に設立された、SHIBUYA109エンタテイメント。
20歳前後の若者「around20」のターゲットに対し「Making You SHINE!」をメッセージに、新しい世代の“今”を輝かせ 彼らの夢や願いを叶えることを企業理念とし、「Around20」をターゲットに設定しすべての施策や活動のベースがマーケティングが中心となっているという。
ターゲット目線を貫くために、ラボを設立
同社が取り組むマーケティングの中でもユニークなのは、若者の研究機関『SHIBUYA109lab.』(以下・ラボ)の存在だ。企業理念を体現するため、ターゲットである若者の夢や興味を徹底的に知ろう! 理解しよう! という想いから2018年にスタートしたという。
「毎週のグループインタビューや館内アンケートによって、毎月100~200名にわたる若者の定量・定性データを積み上げています。ファッションのジャンル別にグループインタビューをすることもあります」と、主だった活動はいたって地道、そして実直だ。
他にも仮説検証や施策に対する反応を集めるなど、調査データは同社の基盤として、施設内外のコンテンツやマーケティングに活かされている。
もくじ
調査から見えた、“今の子”の消費行動
「今の子はSNSが自己表現の場になっており、趣味趣向も様々。ファッション以外でも旅行や食べ歩きなど体験に重きを置いており、以前の価値とは異なってきている」と内藤さんは話す。
ファッションの優先順位だけでなく、特定のブランドへのこだわりも低下傾向が見られるといい、施設としては痛手とも思われる一方で、今の若者らしい消費行動からヒントも見えてきた。
「みんな結構、“何かしらのオタク”なんですよ。アイドルや、アニメ・漫画、食べ歩きとか、趣向は本当に細分化してきてはいますが、好きなものへの投資は惜しみなくしている。特に、Z世代はミレニアル世代よりその傾向が顕著であり、お金への価値観も変わったなと思う」
ラボで得られた生声から、トレンドや隠れたコミュニティを探り出すことも常。「これならハマりそう」「好みそう」というコンテンツを発掘・検討しては、SHIBUYA109の8階にあるエンタテイメントポップアップストア『DISP!!!(ディスプ)』に反映させて高頻度でエンタテイメントコンテンツをアップデート。商品は店頭だけでなく公式ECでも取り扱うことで、“SHIBUYA109でしか買えないワクワク感”や、高いエンタメ性の鮮度を保つ。
生声を徹底的に活かした、40年目のリニューアル
40周年を機に再設定された施設のコンセプトは、『SHIBUYA109LAND』。夢や願望が叶う場所として、テーマパークのように楽しんでもらえる商業施設を目指す。
「体験・経験」「可変性」「カルチャー発信」「売場のメディア化」をキーワードに、いつ来ても新鮮なワクワクドキドキする施設にしていきたいという。
SHIBUYA109を夢のスタート地点に
施設入り口のイベントスペース『COCO SPACE(ココスペース)』では、これから世界に羽ばたきたいアップカミングなアーティストのライブやダンスなどのトーナメントも実施する。この『109路上ライブ』と呼ばれるイベントでは今後活躍するためのスタート地点として、大きな夢を描いた若者を支える取組にも積極的だ。
フォトスポットは大好評
来館客に対しても、ただ来てもらうだけでなく「体験を提供する」ことを意識。階段の踊り場や一部エレベーターホールなど、共用部にフォトジェニックなスポットを設置したところ、大好評を博している。
見た目にも楽しい、“映え”だらけの飲食フロア
食へのニーズの高まりにも着目し、飲食フロア『MOG MOG STAND(モグモグスタンド)』のコンセプトは“食べ歩き”に。
ラボでの生声や、ファッションで培った「行列ができる店」のノウハウがふんだんに落とし込まれ、「食の行列発信」として好スタートを切っている。特に、同社の飲食直営店舗である『IMADA KITCHEN(イマダ キッチン)』では、飲食店やメーカー、タレント等をプロデューサーとして組み、写真映えを意識したオリジナルメニューを開発するほどの力の入れ具合だ。
また関西のみで展開していたクレープ店を「東京初」の店舗として誘致するなど、ステークホルダーも巻き込み、ここでも理念を体現する。
至れり尽くせりの「インキュベーションプラットフォーム」
前述の『DISP!!!』や『IMADA KITCHEN』以外にも新規事業として、インフルエンサーやスタートアップ企業など、夢を追う若者のインキュベーションを目的としたスペース『IMADA MARKET(イマダ マーケット)』を構える。
出品料は売上の歩合のみで、商品さえ準備すれば販売スタッフや内装費などの初期コストがかからないほか、店頭以外にECでも展開できるなど、至れり尽くせりのサービスだ。
ECで買い、店頭受け取りも可能に
ECで購入した商品を受け取れる専用カウンターも新たに設置され、想定を大幅に超える反響を呼んでいる。
SHIBUYA109が抱える課題
リニューアルは好調だが、もちろん課題はある。
「商業施設のCRM施策の定石にハウスカードがありますが、僕らのターゲット世代には合わないんです。ラボによって定性データはかなりとれるようになってきましたが、来館客の定量データを集めるのが難しい」
前述のB2階の『MOG MOG STAND』や8階の『DISP!!!』は、噴水効果・シャワー効果を期待してオープンしたものの、その効果検証までは至っていないという。
アプリや電子マネーを通じ、データ活用を目指す
そこで今後活用していきたいのが、2017年12月にリリースされたSHIBUYA109の公式アプリだ。今年8月からは紙のクーポンを廃止し、店頭のQRコードをアプリで読み取る形式に移行。館内からもダウンロードを促し、着実にユーザーを伸ばしつつある。アプリユーザーを“エンゲージメントの高いSHIBUYA109ユーザー”として分析し、データの収集を目指していく方針だ。
アプリ以外にも『LINE Pay』をはじめ電子マネーの選択肢を充実させるなど、来館客の利便性を向上させながら、データ分析に活かせる土壌も整ってきた。
「店舗もECも上手く使いこなし、自分や環境に合った決済方法までをも自在に選べるのが、ユーザーの特徴でもあります。世の中で言われるオムニチャネルと、今の若者の動向は異なるのでは? と感じる一方で、デベロッパーとしてのオムニチャネルのあり方も考えなければならないが、模索中の段階。
地方から来ている人、近隣に住んでいる人、何度も足を運んでくれている人など、来館客ごとにメリットを提供していけるよう、KPIを検討して分析し、PDCAを回していきたい」
徹底的に生声を集め活かし続けることで、若者に寄り添い、そしてリードしていく。小さな夢から大きな夢までを後押しし、「若者の夢を叶える聖地」へ。「Around20」の心の掴み方のヒントはSHIBUYA109の館内いっぱいに、ギッシリと詰まっていた。