数々の世界的人気モデルを世に輩出してきた米下着ブランド『ヴィクトリアズ・シークレット』の不振や、ワコールHDによる米D2C企業『リブリー(Lively)』の買収など、ミレニアル世代の取り込みや趣向の変化が度々話題となる、下着業界。
そんな中、20〜30代の女性ユーザーから支持を集めるランジェリーブランドがある。ECを中心に、インポートとオリジナルのアイテムを展開する『タイガーリリートーキョー(Tiger Lily Tokyo)』だ。代表の九冨りえさんに話を聞いた。
「こんなの待ってた!」ショップは初日に100名動員
『タイガーリリートーキョー』は、「すべての女性が、心から自分を愛せる時代をつくる」をコンセプトに掲げるランジェリーブランドだ。
代表の九冨さんは、美大卒業後に鞄ブランドで商品企画・MDを4年間経験し、2017年に独立。同年3月にオープンしたショップの初日には、「こんなお店ができるなんて夢みたい!」と、エディターやスタイリスト、アパレルのプレスなど、ファッション業界人を中心に、100名もの人が押し寄せた。
「思い描いていたペルソナ通りの人たちが来てくれた」、順調な滑り出し。感度の高いユーザーから、じわじわとブランドが広まってきた。
ユーザーから支持を集める理由
「現在メインになっているお客様は、自分のことを考え始める余裕も生まれ、まだまだおしゃれを楽しみたい20代後半〜30代後半の女性。大人女性らしい雰囲気でありながらも程よく甘く、気の利いたデザインが支持される理由」。
オリジナルブランド『モン べべ リリー(Mon Bebe Lily)』の価格帯は、ブラジャー・ショーツのセットで7千円ほど。凝ったデザインのインポートアイテムも1万5千円前後と、ある程度服装にお金を掛けられるユーザー世代にとっては“可愛いのに高すぎない”絶妙な価格設定も、「ハマっている」理由のひとつだという。
「下着への違和感」のきっかけは、ヨーロッパ出張
瞬く間に女性の心を掴んだランジェリーブランドは、いかにして生まれたか。
「日本では、胸を大きく見せる下着や、“寝ている間にバストアップできる”と謳う商品ばかり」。イタリア生産の鞄ブランドに勤めていた会社員時代、出張先のヨーロッパで、九冨さんは“女性による女性のための下着”と出会い、日本とのギャップを目の当たりにしたという。
「日本では女性の胸の大きさに対して、周囲が意見する。これが許される風潮から、体型にコンプレックスを抱える女性があまりにも多い気がするんです。男性のファンタジーのために存在する下着を身に着けるのに、違和感をおぼえました」。
日本の下着市場は、ワコールやトリンプ、ユニクロなどの大企業が売上の大部分を占める。
「おしゃれな下着へのニーズはある一方で、アパレルブランドにとっては、プレーヤーが決まっていることから面も取りづらく、手を出しにくい領域だったのではないか」と九冨さんは分析する。
「私がやらねば」という使命感から、ブランドが誕生
ブランド設立の前後にあたる2015〜2017年には、生理用品のブランドや女性向けセックストイブランドが次々と誕生。世界的現象となった“MeToo”運動など、“女性による女性のための”あらゆるムーブメントが、国内外で起こっていた。
「日本の下着に違和感を持っていた女性は、たくさんいたはず。スタートアップなら、共感してくれる人がいれば、それを強みに始められる」と、時代の流れに対する肌感覚と、自身が下着に持っていた違和感が、九冨さんの中でピタリと一致した。
「(下着に対する違和感を)誰かが口に出して、行動しなければ」という使命感で、『タイガーリリートーキョー』は生まれた。
九冨さん流、ブランドコンセプトの伝え方
もくじ
MDは「感性:マーケティング=50:50」のバランス
立ち上げ当初から話題を呼んだMDについて尋ねると、「ブランドの立ち上げ当初は、絶対にマーケティングはしない、と決めていた」。
マーケティング先行ではブランドの個性が消えてしまうと考え、MDは段階的に調整してきたという。ブランドが認知され、伝わりやすさも必要になってきた現在では、「感性とマーケティングを、半々くらいのバランス」に保っている。
サイズや価格は売上や市場の流れを汲み、デザインやクリエイティブ面については、引き続き感性を重視しているという。
SNSを徹底活用。数字は「あえて無視」する
Twitter、Instagram、noteなど、さまざまなプラットフォームを駆使する九冨さん。ブランドイメージを醸成するために心がけていることを尋ねると、「数字を追いすぎないこと」と、意外な回答が飛び出した。
「フォロワーが投稿を保存する“エンゲージメント率”は、優先しています。一方で、いいねの“数”を追求しすぎると、マス受けはしても、ブランドとして大切にしたい感度の高いユーザーからすれば、つまらない内容になってしまう。
実際に、いいねがたくさんついても、フォロワーが減る投稿がある。それが本質だと思うんです。だから、計測するけど無視する。よく分からないことをやってるかもしれません(笑)」。
「思想が伝わるコンテンツ」を信条に掲げ、自身のブランドだけでなく、取引先である海外ブランドが伝えたい思いもしっかりとヒアリングし、きちんと伝えていく努力も惜しまない。
「世界観に合う人を引っ張ることと、知ってもらうことのバランスが難しい」と、試行錯誤する姿が垣間見えた。
テキストか、ビジュアルか。媒体属性によって使い分け
『ノート(note)』でコラムも公開する九冨さんは、「Instagramのファンよりも、noteのエモーショナルなコンテンツに共感してくれるユーザーのほうが“強い”」と分析する。
「30代後半以上の女性、私は“DRESS(ドレス)世代”と呼んでいる、コミュニケーションがテキストだった世代の人たち。彼女たちはnoteファンに多く、共感性が高いんです」とその特徴を教えてくれた。
「30歳以下くらい世代とのコミュニケーションが得意なのは、やっぱりInstagram。ユーザーの幅も広いのでnoteのようにポエミーなことは語らず、ビジュアルをメインに純粋に商品を告知する」と、独自の運用ノウハウを語った。
今後の『タイガーリリートーキョー』が目指すもの
ポイントは「個人の体型データ+趣味・嗜好」
今後は「買い物してくれるユーザーの傾向から、好みのアイテムを買いやすいように紹介し続けるレコメンド」に一層注力していきたいという。
下着を選ぶにはサイズだけでなく、胸の形や重心によっても相性があるうえ、ブランドによってサイズが異なることもある。さらに「キツめに着けないと不安」「苦しいのは苦手」など、個々人の感覚値による変数も加わる。
現状はユーザーへの個別ヒアリングによって、生声のデータを地道にためているという。これらに加え、店頭で得られたデータも活用して、レコメンドの精度を上げていく。
「全て解決してくれるテクノロジーがあれば、ぜひとも取り入れたい!」という願望も語った。
パーソナルな期待に応える、ライフスタイルブランドへ
サイズや好みだけでなく、パーソナルな提案も視野に入れている。例えばランジェリーに関しては、「仕事をする平日はシンプルなデザインを、週末は華やかなものを身につけたい」など、ライフスタイルから生まれるニーズにも応えていく。
「最近はランジェリー以外にも、ルームウェアやセックストイも取り扱い始めている。センスがいいと信頼されれば、“色々なお店で買物しなくても、タイガーリリーで何でも揃う”と思ってもらえるのが、一人のセンスによるセレクトだからこその強み。目指している世界はそこに近い」と九冨さん。
ブランドに共感するファンのライフスタイルに合った「こんなの欲しかった!」を、独自のセンスで提案していく。今後の展開からも、目が離せない。